ソニーと台湾から何を学べるか──李在鎔氏が直面する「サムスン失速」の本当の理由、それは構造の重さだ

先日、韓国で講演する機会をいただきました。現地の友人たちは、TSMC(台積電)の競争力に強い関心を示す一方で、それ以上に気にしていたのは、サムスン電子が現在の行き詰まりをどう打開するかという点でした。ある韓国の教授からは、もし私がサムスン電子の会長である李在鎔(イ・ジェヨン)氏に直接会う機会があれば、どんなアドバイスを送るかと質問されたのです。
私はその教授に二つのポイントを挙げて答えました。第一に、サムスンの事業体は規模が大きすぎ、構造も複雑すぎるため、必ずや簡素化の努力が必要だと感じています。第二に、韓国と台湾では産業構造が異なるため、台湾のモデルをそのまま真似ることは難しい。むしろ、現在組織分割を進めている日本のソニー(SONY)の取り組みの方が、参考になるのではないかと思います。
実際、他の競合企業と比べても、サムスン電子グループの事業構造は極めて複雑です。半導体、スマートフォン、テレビといったあらゆる分野を手がけており、さらに各部門が垂直統合されているため、事業ごとの利益や方向性が異なり、部門間には多くの利害衝突が生じやすい状況にあります。
企業経営において、会長やCEOにとって最も貴重な資源は「時間」です。もし毎日、部門間の調整や意見のすり合わせに追われていたら、本来の業務推進は難しくなります。サムスンを本気で改革したいのであれば、李在鎔(イ・ジェヨン)氏はまず組織の簡素化に着手すべきです。
私はさらに、サムスンが改革の参考とすべきなのは台湾ではないと述べました。というのも、台湾と韓国では産業構造が根本的に異なるからです。台湾企業は基本的に垂直分業のモデルを採用しており、各社がサプライチェーンの一部だけに特化しています。一方、韓国や日本の企業グループは多角的に事業を展開し、さまざまな分野を網羅しています。そのため、日本の優良企業の取り組みの方が、サムスンにとってより現実的な参考になるのではないでしょうか。
ソニーの分社戦略──エンタメを核に、半導体は独立へ
私は最近、日本のソニーの動きに特に注目しています。世界的な地位を持つこの日本企業は、現在、組織と事業部門の分離を計画しており、金融部門と半導体部門を独立させる方針を打ち出しています。これは、サムスン電子にとって注目すべき改革の方向性だと考えられます。
今年5月末、ソニーは銀行や保険を含む金融事業を切り離し、「ソニーフィナンシャルグループ」として分社化すると発表しました。全体の80%の株式を株主に譲渡し、9月末までに分離・上場を完了させる予定です。今後、ソニー本体は映画、音楽、ゲームなどのエンタメ領域に経営資源を集中させていく方針です。
一方、ソニーの半導体事業は、イメージセンサー(CIS)を中心とするSony Semiconductor Solutions(SSS)が担っており、現時点では明確な分社化のスケジュールは発表されていないものの、社内ではすでにその準備が進められています。
ソニーのイメージセンサー(CIS)は、現在世界市場で50%以上のシェアを占めており、SSSは日本企業の中で最も世界半導体市場への貢献度が高い事業となっています。なお、CIS業界の2位と3位は、それぞれ韓国のサムスンと、中国のウィル・グループ(韋爾集団)に買収されたオムニビジョン(OV)です。
私の見方では、ソニーの一連の事業分割計画は、極めて正しい改革の方向性を示していると思います。現在、ソニーの売上の6割以上を占めるエンタメ事業と比べて、金融や半導体事業は性質が大きく異なり、業務の進め方はもちろん、必要な人材や顧客層もまったく異なります。無理に一つにまとめても、シナジー(相乗効果)はほとんど期待できません。
したがって、ソニーが金融および半導体事業を分離することで、コア事業への集中が可能となり、世界的なエンタメ企業への転換が加速するでしょう。今後は、ゲーム、音楽、映像が主要な収益源となる見通しです。
さらに、ソニーがSSSの分社化を検討している背景には、重要な戦略的判断があります。現在、ソニーのCIS製品は高い市場シェアを誇っていますが、それは主にAppleのスマートフォン向けに独占供給していることによるものです。一方で、中国のスマートフォンブランドや新興の電気自動車市場においては、ソニーは明確な優位性を示せていません。
さらに、半導体事業には莫大な資金が必要とされます。現在、ソニーはTSMC熊本工場の株主となっており、先端プロセスにおける安定したファウンドリー資源を確保しています。今後も製品設計でリードし続けるためには、多額の投資が欠かせません。SSSを分社化すれば、資金調達や生産能力の拡大をより柔軟に進めることが可能になるでしょう。
私の考えでは、ソニーがSSSを独立させる最大の意義は、市場の変化や競争圧力に対する対応力を高めることにあります。現在、世界的にスマートフォン需要が減速し、米中間のテクノロジー戦争も激化しており、さらに中国の半導体企業が急成長しています。こうした状況の中、SSSが柔軟に対応し、自律的な競争力を持つためには、分社化が極めて重要だと言えるでしょう。

複雑な組織構造に縛られるサムスン、なぜ加速できないのか?
もちろん、企業ごとに状況は異なります。サムスン電子はソニーよりも明らかに規模が大きく、構造もさらに複雑です。例えば半導体事業だけを見ても、サムスンはメモリやファウンドリーに加え、ロジックICも手がけており、それぞれの事業で製品の特性、経営方針、顧客層が大きく異なります。これらを一社で抱えること自体が、管理の難易度を著しく高めているのです。かつてのように絶頂期であれば、内部の対立も抑えられたかもしれませんが、現在のように業績が下降局面にある今、今後の課題はますます深刻になるでしょう。
2025年7月2日、サムスンが発表した先端プロセス競争に関する後退のニュースは、同社が現在、内外の圧力の中で構造的な困難に直面していることを改めて浮き彫りにしました。
韓国メディアの報道によると、サムスンのファウンドリー部門は、当初2027年に量産を予定していた1.4nmプロセスノードの導入を正式に延期し、2029年以降に先送りすることを決定しました。同時に、同社は2nmプロセスの歩留まり安定化に注力し、4nm、5nm、8nmといった成熟プロセスの運用効率を強化する方針です。
この方針転換は、サムスンがTSMCと「技術でのトップ争い」を急がず、より堅実な財務および生産戦略を志向し始めたことを意味します。しかしそれは同時に、企業内部の構造があまりに複雑で、リソース配分も分散している場合、激化する技術競争の中でリーダーの地位を保とうとすれば、必然的に遅れや妥協を強いられる現実も示しています。
サムスンの事業構造と組織の複雑さは、すでに経営パフォーマンスに深刻な影響を及ぼしています。さらに深刻なのは、それが顧客からの信頼を損なっているという点です。今日のように競争が激しく、不確実性の高い時代において、「信頼」は企業にとって最も貴重な価値であるはずです。
実は、複雑すぎる事業体を切り離して企業の競争力を高めるという手法は、1990年代の台湾ですでに実践されていました。たとえば、私がこれまで何度も紹介してきたように、UMC(聯電)は1996年に分割を行い、Acer(宏碁)は2001年にグループ分離、ASUS(華碩)は2005年に事業分割を実施しています。台湾のエレクトロニクス産業は、「大鍋飯」(共通の器で全員が食べる非効率的な統合モデル)では限界があると早くから見抜いており、これらの改革経験は非常に貴重な資産となっています。
分業体制を導入することで、各事業の役割が明確になり、組織が小さくなることで社員の達成感ややりがいが高まり、新規事業に全力で取り組もうという意欲も生まれます。これこそが、かつて台湾企業が成功したビジネスモデルでした。アントレプレナーシップ(起業家精神)を存分に発揮できる環境こそ、台湾のエレクトロニクスおよび半導体産業が誇るべき核心的価値です。現在、日本や韓国もそのような変革の必要性を感じ始めてはいますが、気づくのが少し遅かった感は否めません。
ある韓国のメディア関係者がこう話してくれました。彼は『チップ・アイランドの輝き』(韓国語版)を読んだ際、「台湾はすべての人の友であり、サムスンはすべての人の敵である」という一節が特に印象に残ったそうです。そして彼は、その言葉に深く共感していました。もし私が本当に李在鎔(イ・ジェヨン)氏に会う機会があれば、この言葉をそのまま彼に伝えたいと思います。



