TSMCだけではない台湾半導体、もう一つの層「パワー半導体」:世界20位のメーカーが5年で世界トップ10に挑む

台湾学
著者:林宏文林宏文
TSMCだけではない台湾半導体、もう一つの層「パワー半導体」:世界20位のメーカーが5年で世界トップ10に挑む

台湾半導体と聞いて、世界がまず思い浮かべるのはTSMCと先端ロジックだ。だが今、三つの力が同時に働いている。顧客は非中国サプライヤーを探し、欧米日の大手は成熟シリコンから退き、EVとAIが需要を押し上げる。この局面で、40年続く高雄のパワー半導体メーカー強茂(PANJIT)は、車載SiCを足がかりに日系・欧州の車載サプライチェーンへ食い込もうとしている。世界20位の会社が5年で主力を世界5%へ。何がそれを支え、そして何が最も足をすくうのか。(強茂グループ社長・方敏宗(中央)、弟で会長の方敏清(右)、そしてCOO(最高執行責任者)の陳佐銘の記念写真。)

「私たちの祖業はレンガ窯で、その後転換し、40年前に半導体の中でも最も基礎的なPNダイオードの分野に参入した」。8月7日、逆立った白髪が印象的な強茂グループ社長・方敏宗(Fang Ming-tsung)は、台新新光金控が主催するネットゼロ・サミットで講演した。演題は「『工業のコメ』の次の競争方程式」。かつて強茂に注目する人はいなかった、最近になって少し名が知られてきたから主催者も声をかけてくれたのだろう、と笑いながら、岡山(台湾南部・高雄の工業地区)には有力な半導体企業もある、と語った。

方敏宗のいう「工業のコメ」とは、パワー半導体(あらゆる産業で使われる基礎部材)のことだ。TSMCがつくる先端プロセスのチップが演算を担うのに対し、パワー半導体は電力の変換と制御を担う:電圧を上げ下げし、電流をオンオフして、機器を適切な電力で動かす。スマホの充電器から、EVのモーター、太陽光発電所、AIサーバーを収容するデータセンターまで、電気を通し、電圧を変え、機器を駆動するところには必ずパワー半導体がある。だから、あらゆる産業が使う「コメ」と呼ばれる。強茂がつくるのは、まさにこの基礎的なパワー半導体部品だ。

この岡山の会社は最近たしかに少し注目されている。昨年、強茂はディスクリート半導体(個別半導体、discrete)市場で世界20位、市場シェアはわずか1.4%だった。インフィニオン、onsemi、STマイクロエレクトロニクスといった大手から見れば、取るに足らない、脅威にならない相手だった。そのメーカーが、5年以内に主力製品MOSFETの売上高を5億ドルに引き上げ、世界シェア5%を獲得すると打ち出した。

台湾はウエハーに強く、「工業のコメ」に弱い

台湾にはきわめて強いウエハー製造、パッケージング・テスト、IC設計の産業があり、各分野で多くの台湾企業が世界トップ10に名を連ねる。だが同じ半導体でも、パワー半導体・ディスクリート部品の分野は、台湾は早くから手がけながら、いまだ世界トップ10に一社も入っていない。

世界トップ10に並ぶのは欧米日と中国の企業で、しかもすべてIDM(ウエハー製造と製品設計を自社で併せ持つ統合デバイスメーカー)だ。

トップ10がそれほど強いのは、パワー半導体の用途があまりに広いためだ。PC・スマホ・サーバーだけでなく、車載市場、産業オートメーション、さらには鉄道交通まで、この「工業のコメ」を使う。いずれも台湾の得意分野ではない一方、欧米、日本、中国といった工業大国が強みを持つ領域だ。

強茂は設立当初からIDM型で、生産能力の拡大は課題だが、製品設計と製造の一体運営が求められるパワー半導体事業に精通している。

追い風は吹く。では、強茂の勝算はどこにあるのか

ただ、パワー半導体産業にいま追い風が吹いており、しかも台湾に最も有利に働く。欧米日のIDM大手が長らく市場を占有してきたが、強茂はこの分野で台湾で最も長く経験を積み、最も多くの顧客を抱える会社だ。既存の構図がひとたび崩れれば、台湾勢を率いて突破口を開く条件を最も備えているのは強茂だ。方敏宗が掲げた555計画には、十分な自信と裏づけがある。

とはいえ、世界MOSFETシェアが1%に満たない会社が、5年で5%にする。この目標は大胆という域を超え、現実離れしているようにさえ映る。強茂は何を根拠にそう言えるのか。そして本当にこの道を行くなら、どの関門で詰まる可能性が最も高いのか。

数十年つづく寡占、太陽光で瀕死になった過去

まず強茂が向き合う相手を見る。世界トップ10のインフィニオン、onsemi、STマイクロエレクトロニクスは、数十年にわたりパワー半導体市場を占有してきた、いずれも自社でウエハー製造と製品設計を手がけるIDM大手だ。強茂の現在の世界MOSFETシェアは1%未満、555計画は5年で5%を目指す。これは、これら大手の主戦場で相当のシェアを奪うことを意味する。

方敏宗がこの目標を掲げる裏づけは、強茂が歩んだ40年の蓄積にある。だが、その40年は順風満帆ではなかった。方敏宗自身が隠さず語るのは、過去最も大きな痛手となった失敗が太陽光への投資で、最終的に合計2.5億ドルの損失を計上したことだ。当時それほど規模の大きくなかった強茂にとって、経営を揺るがしかねない規模だった。

現在、強茂の独立取締役を務める奇鋐(Asia Vital Components, AVC)執行副総の陳易成(Chen Yi-cheng)は、方敏宗とは20年以上の付き合いがある。彼はこう振り返る。2020年のコロナ禍で、強茂が太陽光事業を縮小し損失を確定して撤退したときも、方敏宗は資源をパワー半導体の中核へ改めて集中させた。「あの日、徐州工場は氷点下7度まで冷え込んでいた。それでも彼はみんなを羊肉鍋(羊肉のスープ鍋)に誘った」。陳易成はいう。起業家とはそういうものだ、「どうするかって? とにかく頑張り続けるしかないさ!」。

太陽光に足を引っ張られて倒産寸前に追い込まれながらも、資源をパワー半導体へ再集中させ、強茂は40周年の日を迎えた。

40周年の宴で、彼は「5年で5%」を誓った

強茂の創業は1986年、今年5月20日でちょうど40年になる。その日、方敏宗社長と弟の方敏清(Fang Ming-ching)会長は、高雄で祝賀行事を開かず、二人そろって高雄から台北へ上り、南港のハイライ(漢来)ホテルで、英業達(Inventec)、光宝(Lite-On)といった長年の取引先や、サプライヤー、銀行などの経営幹部を招いて宴を開いた。長年にわたる支援と協力に感謝を伝えるためだ。

席上、方敏宗は長年の旧友たちに、これからも一緒にもう40年成長していきたいと感慨を込めて語った。強茂は「AIエコシステムと世界の自動車・車載分野のスマート化」を今後の二本柱の成長エンジンとし、555計画を始動する。5年以内に主力製品MOSFETの売上高を5億ドルに、世界シェアを5%に引き上げる、と。この日、20卓を埋めた長年のパートナーたちも、方社長の掲げた目標に期待を膨らませた。

世界MOSFETシェアが1%に満たず、インフィニオンから見れば脅威にならない会社が、20卓を埋める長年の取引先を前に、5年で世界シェア5%を獲得すると誓った。強茂は何を根拠にそう言うのか。

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