マイクロンが史上最大の報酬を発表、台湾労組の要求が浮き彫りにした制度の対立。台湾最大の外資企業で持ち上がったストライキの動きを、三つの視点から読む

8月に入ってから、台湾マイクロン(Micron Taiwan)の労働組合がストライキの準備を進めているという話が伝わり、この労使紛争は大きな注目を集めてきた。2026年9月11日(金)、マイクロンは創業以来最大規模のボーナス制度を発表した。対象は台湾マイクロンを含む全世界の6万人超の従業員である。台湾で外資企業の労働組合がストライキに動くのは珍しい。この紛争には少なくとも三つの側面があり、今後の展開と結末は、じっくり見ておく価値がある。
まず、マイクロンの最新のボーナス制度から見ていこう。マイクロンは声明の中で、今回の支給額はマイクロン史上最高であり、すべてのチームメンバーが、自ら加わって生み出した成果を分かち合えるようにするという会社の姿勢を反映したものだと述べている。
台湾では、2025年8月29日より前に入社したすべての従業員に100万台湾ドル(約3万2,000米ドル)の現金ボーナスが支給され、2026会計年度に入社した従業員には在籍期間に応じた額が支給される。台湾の新進エンジニアの平均現金報酬は年290万台湾ドル(約9万2,000米ドル)で、株式口座への付与分を含めると340万台湾ドル(約10万8,000米ドル)に達する。
この前例のない利益還元は、世界的なAIとメモリー需要に押し上げられた好決算の直後に打ち出された。マイクロンの2025会計年度の売上高は前年比49%増の374億米ドル、2026会計年度は第3四半期までの累計で786億米ドルに達し、前年同期のおよそ3倍となっている。
それでも、ストライキを準備してきた台湾マイクロンの労働組合は、より構造的な改革を求める姿勢を崩していない。営業利益の15%を従業員のボーナス原資とし、支給を年1回から四半期ごとに改めよ、という要求である。
台湾の外資系テクノロジー企業でこうした労使対立がストライキにまで発展しかけたのは、近年では初めてのことだ。しかもマイクロンは台湾に1万5,000人の従業員を抱え、累計投資額は1兆6,000億台湾ドル(約510億米ドル)を超える。従業員数も投資額も、台湾に進出した外資企業の中で最大である。半導体とAIの景気がもっとも熱いこの時期に、私は少なくとも三つの角度から掘り下げる価値があると考えており、ここで読者と一緒に整理してみたい。
賞与制度をめぐる争い:アジア型の利益分配制か、米国型の長期株式インセンティブか
第一に、今回のボーナスをめぐる争いは、実のところ制度をめぐる争いである。簡単に言えば、韓国や台湾などアジアで馴染みのある利益分配制と、米系多国籍企業が採用する全世界共通の報酬体系「グローバル・トータル・リワード(Global Total Rewards)」との衝突だ。
台湾マイクロンの労働組合が掲げた主な要求は、利益分配制の導入である。単純で分かりやすい要求だけに、メディアと世間の関心をすぐに集めた。労働組合は、算定方法が不透明で上限が設けられている現行の業績連動賞与制度「IPP(Incentive Pay Plan)」を廃止し、韓国のサムスン電子とSKハイニックスにならって、営業利益の15%を全従業員のボーナス総額とする明確な固定比率の利益分配制度を設けるよう求めている。
そのうえで労働組合は、2026会計年度に一時金として特別ボーナスを支給するよう要求している。労働組合の試算では、台湾の従業員一人あたり給与83か月分に相当する額になるという。現行の賞与制度が高収益を反映できていない分を埋め合わせよ、という主張だ。
労働組合がこうした条件を持ち出したのは、明らかにSKハイニックスとサムスン電子の例を参考にしている。両社の労働組合は、営業利益に連動するボーナス原資を勝ち取った。SKハイニックスは営業利益の10%、サムスン電子は半導体部門の営業利益の10.5%である。サムスン電子では、既存の超過利益成果給(OPI)は年収の50%という上限が維持されたままで、新設された特別ボーナスの原資には上限がない。協定と2026年の利益予想に基づくと、サムスン電子のメモリー部門の従業員は今年およそ6億ウォン(約40万米ドル)のボーナスを受け取る見込みで、その大部分は株式として数年に分けて支給される。こうした比較材料が、マイクロンの労働組合の主張の核になっている。
従業員がネット上に投稿した内容によると、現行のIPPでは年間の業績賞与に200%の上限があり、最大でも給与5か月分にしかならない。同じ投稿は、韓国の同業だけでなく、台湾の同業であるウィンボンド(華邦電子)が40か月分、南亜科技(Nanya Technology)が36か月分を支給したと対比している。現場の従業員の間で相対的剥奪感が急激に強まったのは確かだ。
従業員の立場からすれば、労働組合が求める営業利益の15%で計算すると、ボーナスの規模は最大で83か月分に達する可能性がある。「5か月分か、83か月分か」というこの巨大な差が、従業員の怒りの根源だろう。公平に見て、もともとの差は確かに大きく、従業員が受け入れられなかった気持ちは理解できる。

一方でマイクロンは、労働組合の要求を明らかに重く受け止め、慎重に対応してきた。米国本社は最高経営責任者(CEO)の首席補佐官である陳玉鳳(Chen Yufeng、音訳)氏を派遣し、台湾マイクロンの盧東暉(Donghui Lu)董事長とともに対応にあたらせた。そして9月11日、米国のマイクロンと台湾マイクロンは同時に、マイクロン史上最大規模のボーナス制度を発表した。
今回の制度では、IPPにおける年間業績賞与の上限が200%から500%に引き上げられた。マイクロンが強調しているのは、現金をきちんと支給するだけでなく、より長期の株式で人材をつなぎとめるという点である。
実のところ、米国の大企業が全従業員を対象とする純粋な利益分配制を採ることはきわめて少ない。米国で「利益分配」と呼ばれるものは、多くの場合、退職金制度への拠出という繰り延べの形をとる。大半の米系多国籍企業と同じく、マイクロンはグローバル・トータル・リワードの体系を採用しており、固定給、個人の業績賞与(IPP)に、譲渡制限付株式ユニット(RSU)と15%割引で自社株を購入できる従業員株式購入制度(ESPP)を組み合わせている。この枠組みは長年にわたってマイクロンで運用されてきた。
この制度の特徴は、「財務規律と長期の株式」によって、「景気とともに急騰と急落を繰り返す高額の現金分配」を置き換えている点にある。だからこそマイクロンは人材を長期にわたってつなぎとめ、幾度もの景気循環を生き延び、さらには数々の買収を重ねて韓国のメモリー2強と競争してこられた。
韓国2社の10%前後の利益分配制は、確かに単純明快で、従業員にとってはこちらの方が透明で公平に感じられるかもしれない。しかし問題は、メモリーが景気循環型の産業だということだ。利益が出る年には10%を分配できるが、利益が出ない年には分配するものがない。2023年と2024年にこの産業がどれほど悲惨だったか、誰もがまだ覚えているはずだ。今回のメモリー価格の回復が始まったのは、2025年半ばになってからである。
TSMCも毎年12%を配っているではないか、と言う人もいる。しかしメモリーとロジックはやはり別の事業だ。TSMCは来年で創業40年を迎える。この39年間、赤字の年は一度もなく、利益は長期的に増え続けてきた。だから毎年12%を配っても何の論争も起きない。従業員の現金報酬もそれに伴って長期的に増えるからである。メモリー産業はそうではない。大きな赤字を出す年があり、利益分配制にこだわることが従業員にとって必ずしも良いとは限らない。
これは韓国で労働組合がこれほど盛んな理由の一つでもある。会社が利益を出している間、労働組合はより多くのボーナスを求めるのが当然だが、不況期には利益分配制からは何も引き出せない。分配できる剰余がそもそもないからだ。そのとき労働組合は一転して、会社に株式を配れと要求するのだろうか。
実際、赤字の年に従業員へ株式を付与することは、従業員にとって非常に大きな利益になる。台湾マイクロンの資料によると、景気がもっとも悪かった2023年、マイクロンは1株約56米ドルで従業員に株式を付与した。9月11日の終値約975米ドルと比べると、およそ17倍に値上がりしたことになる。もちろん早々に売却した従業員もいるだろうが、長期保有して恩恵を受けた従業員も当然いる。
つまり、アジア型の利益分配制であれ、現金と株式を組み合わせる米国型の制度であれ、どちらかが絶対的に優れているわけではない。報いる方向が違い、効果も違うのである。
利益分配制が結びついているのは「その年の利益」だ。単純明快だが、不作の年には従業員に分け前がなく、会社にとっても人材流出の課題に直面しかねない。一方、米国型の制度が結びついているのは「長期的な価値」である。マイクロンが今回、史上最大規模のボーナスを打ち出した狙いは、現金を上積みして人材を引き留めることに加え、より長期の株式によって、潜在力のある従業員に残ってもらい、株主になってもらい、株式の長期的な価値上昇の恩恵を受けてもらうことにある。
韓国2強との競争に加え、マイクロンは中国メーカーの急速な台頭にも向き合う
第二に、今回の台湾マイクロンのストライキ問題は、世界のメモリー産業における競争と協力の大きな構図の中で見なければならない、と私は考えている。これは技術、資本、人材確保を同時に競う長期戦であり、マイクロンにとってもっとも重要な同盟相手である台湾をいかにつなぎとめ、景気循環を乗り越えられる制度をつくるかが、より決定的な一戦になっている。
トレンドフォース(TrendForce)の2026年第2四半期のDRAM売上高シェアによると、サムスン電子が39.4%、SKハイニックスが24.9%、マイクロンが23.3%である。マイクロンとSKハイニックスの差は、第1四半期の6.4ポイントから第2四半期には1.6ポイントに縮まり、2位が視野に入ってきた。

その中で決定的な勝負どころになるのがHBMだ。2026年には3社ともHBM4がエヌビディアの供給網に入っており、サムスン電子が最初に出荷し、マイクロンは2026年3月中旬にエヌビディアのVera Rubinプラットフォーム向けに設計したHBM4の量産出荷を発表した。HBM4の配分については、韓国経済新聞の報道によると、エヌビディアの初期配分はSKハイニックスが50%台半ば、サムスン電子が20%台半ば、マイクロンが20%程度とされる。
さらに、今年7月に上海に上場した中国の長鑫科技(CXMT)は、時価総額が一時、中国A株市場の首位に躍り出た。これは世界のDRAM産業に新たに加わった重要な変数である。長鑫科技のDRAM売上高シェアは、トレンドフォースの数字では今年第1四半期に7.6%、カウンターポイント・リサーチ(Counterpoint)の数字では第2四半期に10%を突破して世界4位に浮上した。これによって3強の合計シェアは初めて90%を割り込み、市場の予想よりおよそ2年早い展開となった。野村証券は長鑫科技が2028年末に世界シェア18%に達すると予測し、投資家のダン・ナイルズ氏に至っては、中国メーカーが2030年に世界のDRAMの30%を握る可能性があるとみている。
加えて、中国のもう一つのメモリーメーカーで、NANDフラッシュを手がける長江存儲(YMTC)は、カウンターポイント・リサーチの出荷量統計によると、今年第2四半期に日本のキオクシアとマイクロンを一気に追い越し、シェア約14%で世界3位のNANDサプライヤーに浮上した。サムスン電子の25%、SKハイニックスの22%に迫る水準である。売上高ベースではまだキオクシアとマイクロンに及ばないが、長い目で見れば、長江存儲が前に出るのは時間の問題だろう。
したがって、マイクロンが本当に注意を払うべきは、中国メモリー産業の全面攻勢である。AIがメモリー産業の大きな成長を牽引する中、マイクロンは従来の韓国2強と競争するだけでなく、中国政府の全面的な支援を受ける中国メーカーとも競わなければならない。米中二大国の争いの下で、マイクロンは他の力と結びついて中国に対抗する必要があり、非中国サプライチェーンの中心にいるのが台湾なのだ。
マイクロンにとって、台湾は間違いなく世界でもっとも重要な生産拠点である。台湾の従業員1万5,000人は全世界6万人の25%を占め、台湾はマイクロンの世界生産能力の6割を担う。桃園、銅鑼、台中から台南まで、マイクロンはかつて華亜科技(Inotera)、力積電(PSMC)、瑞晶電子(Rexchip)、そして友達光電(AUO)のものだった工場を取り込み、台湾のメモリー製造力をそっくり自らの傘下に収めて、世界でもっとも重量級の生産基地を築き上げた。
だからこそ本社は、今回の台湾マイクロンの労働組合によるストライキの動きをこれほど重く見たのであり、その理由はもとから見えていた。マイクロン本社は台湾とアジアの客観的な事情を勘案し、従来の株式と現金を組み合わせた賞与制度に部分的な調整を加えたうえで、全世界の従業員に適用する史上最大規模のボーナス制度を打ち出した。こう見れば、この動きの背後にある論理は理解しやすい。
完璧な制度はない、と私は考えている。実際、サムスン電子もSKハイニックスも、そしてTSMCでさえ、より長期の株式付与の仕組みをどう取り入れて従業員を引き留めるかを考え始めている。株式は現金よりも長く効くインセンティブを生むからだ。
マイクロンが従来の賞与制度に現金を上積みした目的は、言うまでもなく台湾の従業員を引き留め、台湾の生産拠点をより強固にし、最終的には米国型の制度が景気循環を乗り越えられるようにすることにある。私の見立てでは、マイクロンが市場の要請に応じて制度を調整したことで、今後の世界のメモリー産業の競争は一段上の次元に引き上げられ、マイクロンは従業員の利益還元制度において先導役を担う可能性が高い。
運命共同体としてのマイクロンと台湾:台湾の対韓貿易赤字を縮める
第三に、マイクロンが台湾にとってきわめて重要な存在であることは、今回のストライキ騒動のもう一つの、より深い論点である。マイクロンと台湾の運命共同体は、今日の世界の半導体競争においてもっとも緊密で切り離せない関係であり、マイクロンにとっても台湾にとっても同じように重要だと私は考えている。
9月12日(土)に告別式が営まれたばかりの力積電の黄崇仁(Frank Huang)前董事長は、生前、台中の瑞晶工場と銅鑼工場を相次いでマイクロンに売却した。黄氏はマイクロンのサンジャイ・メロートラ(Sanjay Mehrotra)CEOとの会談で、こう語ったことがある。「私は台湾人だ。工場をマイクロンに売る気になったのは、あなたたちに韓国人を打ち負かす手助けをしてほしいからだ」。
黄氏がかつて率いた力晶半導体(Powerchip Semiconductor)はサムスン電子に手ひどく打ちのめされ、最終的に1,200億台湾ドル(約38億米ドル)の負債を抱えて上場廃止に追い込まれた。黄氏がマイクロンのCEOにこの言葉を口にしたことは、まったく意外ではない。
台湾には十分な規模のメモリー大手がない。これは台湾の半導体産業構造の中でもっとも弱い環である。AIには大量のHBMが必要であり、マイクロンが台湾で重要な生産規模を持つ今、マイクロンは台湾の対韓貿易赤字を縮小する要の役割も担っている。
長年、台湾の貿易赤字がもっとも大きい相手国は2023年まで日本だった。それが2024年には韓国に変わり、対韓貿易赤字は2024年に229億米ドル、2025年には370億米ドルに達した。理由は、韓国製のHBMが大量に台湾へ輸入され、GPUとともにTSMCの先進パッケージング技術「CoWoS」で組み立てられたうえで米国へ輸出されているからだ。マイクロンが台湾でHBMを多く生産すればするほど、台湾の対韓貿易赤字は減る。これが黄崇仁氏の期待であり、台湾の多くの業界関係者の思いでもあるだろう。

マイクロンが今回の制度を発表したことで、つまり台湾の従業員一人ひとりに約100万台湾ドルが一律支給され、IPPと株式も上積みされることで、従業員の所得は大きく伸び、台湾の税収にも貢献する。
台湾マイクロンの試算によると、来年の台湾マイクロン従業員の個人所得税(総合所得税)の納税額は40億〜120億台湾ドル(約1億2,700万〜3億8,000万米ドル)に達する見込みだ。中央値の80億台湾ドルで計算すると、2025年の台湾の個人所得税収約8,737億台湾ドルの0.9%に相当し、上限の120億台湾ドルなら約1.4%を占める。一企業が台湾にこれほどの財政貢献をするのは、相当に大きなことだ。
それだけではない。TSMCの劉徳音(Mark Liu)前董事長は早くからマイクロンとTSMCの深い提携を主張し、退任後はマイクロンの取締役に就いて両社の関係を維持し続けている。また、TSMCからマイクロンに移って台湾マイクロンの董事長を務め、その後TSMCに戻った徐国晋(K.C. Hsu)氏は、いまTSMCで先進パッケージングとシリコンフォトニクスを率いており、同じく両社のより緊密な協力を推し進めている。
HBM以外でも、マイクロンは台湾で多くの工場を買収、改修、新設しており、漢唐集成(United Integrated Services)、亜翔工程(L&K Engineering)、帆宣系統科技(Marketech International)、洋基工程(Yankey Engineering)といった地元の工場建設サプライチェーンと密接に協力してきた。マイクロンはこれらのパートナーを、シンガポール、日本の広島、そして米国の各拠点へと世界に連れ出している。
今年7月、マイクロンは米国の半導体エコシステム強化に最大30億米ドルを投じると発表した。その中には、台湾の環球晶円(GlobalWafers)と結んだシリコンウエハーの10年長期供給契約と、環球晶円の米テキサス州での工場建設を支える5億米ドルの戦略的融資が含まれている。
このように、マイクロンは台湾の半導体サプライチェーンが世界の舞台に立つ手助けをしている。この信頼関係は、今日の世界の半導体産業における台湾のもっとも重要な価値であり、台湾が競争力を維持できる鍵でもある。台湾マイクロンの労働組合とマイクロンの経営側が実行可能な解決策を見いだし、この対立を円満に収め、「信頼の島」台湾が世界で輝き続けることを、私は願っている。



