台湾AI産業高度化シリーズフォーラム|イベントレポート:AIエージェントは工場で何ができるのか?製造業は検証可能な一つの工程から始める

(フォーラム終了後に撮影した登壇者とパネリストの集合写真。左から、優智能CEOの陳建志氏、MICH微智匯控股でAIソリューションアーキテクチャを担当する副総経理の張哲嘉氏、思偉達創新科技CPO兼デザイン責任者の郭東穎氏、迅得機械CTOの呂文斌氏、宇清数位智慧会長兼CTOの郭仲仁氏、奇鼎科技研究開発部長の劉祐誠氏、TAIWANinside共同創業者の林宏文氏、NEAT理事長の鄧萬偉氏。)
全国創新創業総会(NiEA)と台湾新経済連盟協会(NEAT)は2026年8月20日、台北南港展覧館1館5階の会議室504bで、MICH微智匯控股を主要スポンサーとして「台湾AI産業高度化シリーズフォーラム|半導体ウェハ工場レベルのスマート製造を中小工場へ:データ、スケジューリング、AIエージェント」を共同開催した。フォーラムはAutomation Taipei 2026に合わせて開かれ、国家発展委員会が指導し、Asia Silicon Valley & AI Strategy Agency(ASVA)が協力した。TAIWANinsideは協力メディア兼実施団体を務め、共同創業者の林宏文氏が司会を務めた。
プログラムは二つの基調講演と二つのパネル討論で構成された。MICH微智匯控股の最高技術責任者(CTO)張宗堯氏と、宇清数位智慧(YouThought)会長兼CTOの郭仲仁氏がそれぞれ講演した。パネルには、迅得機械(SYMTEK Automation Asia)CTOの呂文斌氏、優智能(GoEdge.ai)最高経営責任者(CEO)の陳建志氏、MICH微智匯控股でAIソリューションアーキテクチャを担当する副総経理の張哲嘉氏、奇鼎科技(Chyi Ding Technologies)研究開発部長の劉祐誠氏、思偉達創新科技(STARBIT)の最高製品責任者(CPO)兼デザイン責任者である郭東穎氏が参加した。主催者を代表して、NiEA最高執行責任者(COO)の吳若瑋氏とNEAT理事長の鄧萬偉氏も出席した。
製造業の申込者の多くは、AIを理解・評価している段階にある
事前アンケートには明確な落差が表れた。重複申込を除いた81人のうち、55人が製造業に属すると回答した。製造業の55人中35人は、評価をまだ始めていないか、情報収集・評価の段階にとどまっており、約64%を占めた。単一または一部の工程で試行している人は17人、複数の工程または工場で本格運用していると答えた人は2人だけだった。残る1人は「いずれにも該当しない」を選び、「個人として理解を深めたい」と補足した。この結果は、会場に集まった企業の多くが全面導入の段階に入っていないことを示す。企業はまずAIエージェントの働き方を理解し、自社工場が導入条件を満たしているかを判断する必要がある。
AIエージェントとChatGPTは何が違うのか
張宗堯氏は工場の実際の工程を起点に、生成AI、RPA、AIエージェントがそれぞれどの仕事に向くかを説明した。生成AIは情報の整理・判読・生成を担う。RPAは事前に決めたルールに沿って固定された手順を繰り返す。AIエージェントは、明確な目標、利用可能なデータ、定められた権限の範囲内で次の行動を判断し、ERP(統合基幹業務システム)、MES(製造実行システム)、APS(先進計画・スケジューリング)などのシステムを呼び出して業務を完了する。その後、結果を担当者の確認に回すか、システムへ書き戻す。製造業にとって重要なのは、判断、実行、確認、報告を制御可能で追跡可能な工程に組み込むことである。
例えば新規受注を受けた場合、AIエージェントは品番、数量、納期を認識し、ERPで在庫と資材の状況を確認したうえで、APSを呼び出して生産計画を作成できる。設備、納期、材料に衝突が見つかれば、実行可能な選択肢を整理し、担当者の確認を受け、承認された結果をERPまたはMESへ書き戻す。この使い方は、AIに工場全体の管理を任せることと同じではない。企業はあらかじめ境界、権限、例外処理、人による確認地点を設定しなければならない。
MICH微智匯控股の張宗堯CTOが製造工程を例に、AIエージェントがデータ、業務システム、意思決定ツールをどう接続するかを説明した。

AIエージェントは既存の意思決定ツールを呼び出す必要がある
工場がAIエージェントを導入しても、既存システムの役割は残る。郭東穎氏は受注・文書処理を例に、OCR(光学文字認識)が紙の書類や非構造化情報を項目データへ変換することで、後続の工程が受注、在庫、生産の情報を照会できるようになると説明した。郭仲仁氏は、生産計画には納期、設備、人員、段取り替え、材料といった制約が同時にかかると述べた。制約条件を解くのは引き続きAPSと数理モデルであり、AIエージェントは業務と情報をつなぐ。
郭仲仁氏は、59のステップからなるプロジェクトのうち、機械学習を使ったのは6ステップだけだった事例を紹介した。スマート製造のすべてをAIに置き換える必要はない。ルールが明確な工程は既存のプログラムや数理手法をそのまま使える。データのパターンが複雑で、認識や予測が必要な工程について、機械学習の採用を検討すればよい。
第1部のパネルでは、林宏文氏の司会で、呂文斌氏、陳建志氏、MICH微智匯控股の張哲嘉氏が設備データ、現場知識、計算資源の選択を議論した。

AIはERP、MES、現場データを飛び越えられない
AIエージェントに業務を完了させるには、データの定義が一致していなければならない。呂文斌氏は設備接続の経験から、OT(制御技術)側とIT(情報技術)側が同じ設備状態を異なる名称で呼ぶ場合が多いと述べた。項目、単位、イベントの定義を先に統一しなければ、その後の分析で誤判定が起こりやすい。劉祐誠氏は、センサーデータが示すのは測定結果だけだと指摘した。化学、水、電力、プロセス条件を解釈するには工学的な知識が欠かせない。数値をそのままモデルに渡しても、信頼できる答えは得られない。
陳建志氏は、現場経験の継承に焦点を当てた。熟練技術者は音、外観、手触り、過去の状況から異常を判断することが多い。しかし、その判断を追跡可能な記録とルールに変換しなければ、システムは安定して利用できない。企業はまず判断条件、対処方法、結果を記録し、部門横断チームが標準化できる内容を確認する必要がある。
まず検収基準を定められる一つの工程を選ぶ
製造業の申込者のうち48人、約87%が「中小製造業におけるAIの実用事例と効果」を関心項目に挙げた。導入前の評価と費用対効果に関心を示した人は33人で60%、工場内のデータ基盤整備とガバナンスに関心を示した人は30人で約55%だった。回答からは、導入によって納期、作業時間、歩留まり、異常対応を改善できるかどうかが企業の最大の関心事であり、モデル名は優先課題ではないことが分かる。
会場では、APSを先に構築せず、データを直接AIへ渡せるかという質問が出た。張宗堯氏は、特定の業務から始めることは可能だが、納期、品質、価格、優先順位などの事業ルールを定義する必要があると答えた。意思決定基準がなければ、どの生産計画が経営目標に合うかをAIエージェントは判断できない。
現実的な出発点は、入力、出力、権限、検収指標を明確にできる工程である。受注登録、欠品確認、作業割当の提案、異常情報の集約などが候補になる。導入前後の処理時間、誤り率、人が介入した回数、納期達成率を比較したうえで、対象範囲を広げるかどうかを決められる。
第2部のパネルでは、郭仲仁氏、劉祐誠氏、郭東穎氏、司会の林宏文氏が生産計画、データ品質、システム統合を議論した。

業務量を確認してから、クラウドかオンプレミスかを決める
張哲嘉氏は、計算資源の選択を業務量、データの機密性、運用能力の問題として整理した。業務量が小さい、需要変動が大きい、またはITチームがまだない企業では、クラウドサービスが初期導入の負担を抑えられる。データを工場外へ出せず、利用量が安定し、応答時間への要求が厳しく、サーバールームと運用人員を備えている場合は、オンプレミスが効果を発揮しやすい。ハイブリッド構成を採り、機密データとリアルタイム処理を工場内に残して、変動する需要をクラウドへ置く企業もありうる。
総保有コストを計算する際、ハードウェアの購入価格とクラウドの月額料金だけを比較してはならない。オンプレミスには電力、冷却、スペース、保守、人員の費用が加わる。クラウドでは長期利用量、データ転送、権限管理、ベンダーへの依存を見積もる必要がある。企業はまず業務負荷を確認し、3〜5年間のコストとリスクを比較すべきである。
主催者は分野横断チームの工場参画を目指す
主催者は、中小製造業が必要とする支援は設備、データ、生産計画、モデル、計算資源、運用にまたがると説明した。一社のベンダーがすべての問題を単独で処理することは難しい。連携チームはまず工場で工程を確認し、その後に検収可能な統合案を提示する必要がある。現場検証では成果の記録も残さなければならない。企業はその記録を基に追加投資を判断できる。
フォーラムは、すべての工場にAIエージェントの即時導入を求めたわけではない。議論からは、より現実的な順序が示された。企業は最初に境界が明確で、データを取得でき、結果を測定できる工程を選ぶ。次にERP、MES、APS、設備データがそれぞれ担う役割を確認する。導入チームがモデル、計算資源、配置方式を決めるのはその後である。AIエージェントが工場に入れるかどうかは、企業が工程、ルール、データ、責任を明確にできるかにかかっている。
調査方法
本稿のデータは「台湾AI産業高度化シリーズフォーラム」の参加申込アンケートに基づく。アンケートは申込期間中にACCUPASSを通じて収集し、85件の回答を得た。参加者のメールアドレスを基準に重複申込を除くと、回答者は81人で、このうち55人が製造業に属すると答えた。本稿に記載した製造業の割合は、すべてこの55人を分母としている。関心テーマは複数回答方式のため、各項目の合計は100%を超える。回答は任意で、無作為抽出や加重処理は行っていない。結果は今回のフォーラム申込者の導入状況と関心事項のみを示すもので、台湾製造業全体の割合として一般化することはできない。



