熊本3ナノは単なる投資案件ではない:TSMCが語ったこと、そして語らざる3つの重要な意義

昨日(2月5日)、TSMCの魏哲家(シー・シー・ウェイ)会長と日本の高市早苗首相が会談し、日本の熊本第2工場が直接3ナノメートル(nm)プロセス技術に移行することを発表した。この布石は日本の半導体産業にとって重大な意義を持つだけでなく、米日台の半導体産業におけるさらなる同盟関係を意味し、米中競争や地政学的な展開に対して具体的な影響と貢献をもたらすものだ。
現在すでに量産に入っているTSMCの熊本第1工場(Fab 1)のプロセス技術ノードは12/16ナノと22/28ナノであり、量産される製品はソニー(SONY)のCISチップ(イメージセンサー)や、日本で需要の大きい車載用・産業用半導体が中心となっている。
一方、本来の熊本第2工場の生産計画は6~12ナノを予定していた。しかし、AIが牽引するチップ需要が極めて強く、TSMCの現在のアメリカおよび台湾での工場拡張スピードでは到底需要に追いつかないため、最終的に成熟プロセスを飛び越え、熊本第2工場を直接3ナノの先端プロセスへ引き上げると発表したのである。
TSMCのこの3ナノ投資案件には、少なくとも3つの重大な側面からの影響があり、さらに深く議論する価値がある。
意義その1:日本が超強力な戦略拠点となる
まず、TSMCにとって、これは慎重かつ注意深い一方で、極めて積極的でアグレッシブな新戦略である。
TSMCからすれば、熊本第2工場が建設され量産に入るのは、およそ2、3年後のことだ。つまり量産時期は2028年か2029年になるはずだが、その頃には台湾本国はすでにA16やA14、すなわち1.6ナノや1.4ナノ(オングストローム世代)へと進んでいる。海外工場のプロセス技術が、台湾工場より2世代前(N-2)あるいはさらに下位の技術に留まることは、現在のTSMCの「台湾がリードし、グローバルに展開する」という海外投資の原則に合致している。
しかし、これは同時にTSMCが日本市場に向けて打ち出した超強力な戦略でもある。一方で、日本国内のAI、自動運転、ロボットなどの関連受注を強気に獲得できると同時に、もう一方で、2027年に量産を開始する予定の「日本半導体復活の希望」と目される地元企業Rapidus(ラピダス)にとって、TSMCは超強力な競合相手となる。Rapidusは極めて慎重かつ真剣に対応しなければならない。
さらに、もう一つの波及効果がある。現在、世界中で先端プロセスチップの深刻な供給不足が起きており、将来的に熊本第2工場のターゲット顧客は、もはや日本国内の企業だけではなくなる可能性が高い。今後、需要を満たせない欧米大手メーカーの受注が、熊本での生産へと移管されるチャンスがあるのだ。
したがって、将来的に日本は、台湾以外で先端プロセス技術と受注能力を備えたTSMCのアジア第2の半導体生産拠点となることが期待される。また、アメリカのトランプ大統領にとっても、日本はアメリカの強固な戦略的同盟国であるため、将来的に米国系大手メーカーが受注を熊本での生産に移したとしても、アメリカが反対するような場所ではない。
意義その2:日本のIC設計発展に対する引き上げ(牽引)効果
次に、日本の半導体産業にとって、TSMCの3ナノ投資は日本に対してもポジティブで積極的な意義を持つ。
アジアで最も早く半導体産業を発展させた先進大国である日本は、過去30年間で韓国に明確に追い抜かれてしまった。日本国内には再び立ち上がり復興したいという野心があり、今回台湾という助っ人を見つけたことは、最も補完性が高く、互いに利益をもたらすウィンウィンのパートナーを得たと言える。
熊本は九州に位置し、九州は台湾に最も近い日本の領土である。飛行機に乗ればわずか2時間余りで到着でき、今後九州と台湾の産業的な結びつきはさらに一段と高まるだろう。
TSMCが熊本第2工場のプロセス技術を3ナノへとアップグレードさせることは、日本の半導体に復興のチャンスをもたらすだけでなく、日本の半導体産業全体の構造転換とアップグレードにも大きな助けとなる。
例えば、すでに世界をリードしている日本の半導体製造装置、素材、化学などのサプライヤーにとって、今後の3ナノ関連の資本支出と投資は、これら日本のサプライチェーンにとっての巨大なビジネスチャンスとなる。さらに、これらの日本サプライヤー自身もより先端的なプロセス技術へと発展することができ、将来的にさらに多くの洗練・アップグレードの機会を得ることになる。
それだけでなく、日本に3ナノ半導体の生産能力を設けることは、日本がより先端的なプロセスのIC設計(チップ設計)や製品開発などの方向へ発展することを促す、非常に重大な引き上げ(牽引)効果をもたらす。
日本のIC設計分野は、長年にわたりあまり目立った実績がなく、アメリカや台湾、中国本土のIC設計会社のように、早くから産業発展競争力の「もう一つの足」となっているような存在がない。大規模なIDM(垂直統合型デバイスメーカー)工場にしても、現在では製品設計において非常に遅れをとっている。そのため、TSMCの熊本第2工場には、日本をより先進的なプロセス技術の製品開発へと向かわせる刺激となる効果がある。
実のところ、私は何度も日本へ講演に行き、この点について言及してきた。かつてTSMCはアメリカの半導体産業のアップグレードを助ける良き助っ人であり、特にアメリカのIC設計業界はTSMCのおかげで世界的な大勝者となった。将来的には、TSMCは日本が再び製品設計において進展を遂げ、リードを奪い返すための手助けもできるはずだ。
また私は、日本が現在IC設計を発展させる上で、必ずしもすべてを自前でやる必要はないと何度も強調してきた。事実、日本のソフトバンクは現在、ARMホールディングス(アーム)の最大の筆頭株主であり、ARMこそがIC設計分野におけるトップのIP(知的財産)企業である。つまり、日本人はIP産業に決して不慣れではないばかりか、これらの企業がもたらす価値を十分に理解しているのだ。
そのため私は、日本は台湾のIC設計サービスおよびASIC(特定用途向けIC)産業チェーンを存分に活用できると何度も提案してきた。つまり、シリコンIPコンポーネントを提供するGUC(創意)、Alchip(世芯)、eMemory(力旺)、Andes(晶心)などの企業や、あるいは大手メーカー向けにASICチップの設計サービスを提供するMediaTek(聯發科)のような存在である。台湾のこれら成熟し、活力に満ちたIC設計産業チェーンは、日本がしっかりと活用すべき強力な助けとなる。
もちろん、日本の産業界にとって、Rapidusはより大きな課題に直面する企業となるだろう。日本がアメリカのIBMやベルギーのimecと協力して設立したこの企業は、2027年に2ナノの量産に入る予定であり、その際にはTSMCと直接「肉弾戦(真っ向勝負)」を繰り広げることになる。しかし別の角度から見れば、TSMCのような競争の脅威があるからといって、Rapidusにとって必ずしもマイナスの影響になるとは言い切れない。おそらく、彼らがより強力になるための刺激となる可能性もあり、今後の変化は非常に注目に値する。
全体として見れば、熊本3ナノ工場は日本全体にとって、間違いなくマイナスよりもプラスがはるかに多い。現在、日本は大改革の段階に入っており、高市早苗首相も絶えず、政府の改革への決意を支持するよう日本国民に呼びかけている。そうでなければ、日本が競争力のある世界レベルの国家になることは難しいからだ。
私は、TSMC熊本工場の投資が日本に対して非常に巨大な刺激作用を生み出し、将来の日本産業の成長における極めて重大な契機になると信じている。
意義その3:投資案件を通じて高市氏への支持と感謝を表明
最後の点については、米中対立の局面下で地政学的な要因が絶えず発酵し続けている中、熊本第2工場がこのタイミングで3ナノにアップグレードされたことは、重要な意義を持っていると私は考える。
中でも最も重要だと思うのは、2月8日の日本の国会選挙を前に、魏哲家会長が2月5日に高市早苗氏と会談することを選んだ点だ。高市早苗氏の支持率と人気は非常に高い。TSMCがこのタイミングでの発表を選んだことは、総選挙において彼女に救いの手を差し伸べる(後押しする)ことに等しく、魏哲家会長の政治的センスが極めて高いことも見て取れる。
それだけでなく、TSMCは今や国際的な影響力を備えている。今回の発表は、常に台湾に対して誠意を持ち、長期的な支持を与えてきた高市首相への感謝の表明でもある。高市氏は「台湾有事は日本有事である」と何度も提唱し、中国から強烈な抗議と経済制裁を受けてきた。
魏哲家会長は会談の際、高市早苗氏が2021年に出版した著書『美しく、強く、成長する国へ。―私の「日本経済強靭化計画」―』をわざわざ持参し、自身が長年にわたり高市氏の政策理念を支持してきたことを伝えた。これには高市首相もその場で口を大きく開け、驚きと喜びに満ちた表情を浮かべた。
魏哲家会長は熊本3ナノの投資案件を通じて、日本に対する台湾の支持と感謝を表明した。これはまさに「言わずもがな(以心伝心)」のメッセージであり、大国からいじめ(抑圧)を受けた経験を持つすべての日本人と台湾人であれば、きっとその思いを感じ取ることができるはずだ。



