プロセス技術と水資源から読み解く、日台半導体産業の発展モデルの違い

TSMC
著者:林宏文
プロセス技術と水資源から読み解く、日台半導体産業の発展モデルの違い

昨年、私は日本で書籍『tsmc,推動世界的祕密(邦題仮訳:TSMC、世界を動かす秘密)』を出版したことをきっかけに、日本の産業界やメディアの方々と交流する機会が増えました。最近、日本のメディアから特によく尋ねられる質問が二つあります。一つは「TSMC熊本工場(JASM)の第2工場のプロセス技術はアップグレードされるのか」、もう一つは「JASMの工業用水問題」についてです。本コラムでは、これらに対する私の見解を共有したいと思います。

JASM第2工場の製造プロセス計画については、当初日本のメディアが「4ナノメートル(nm)への移行」を報じ、その後台湾メディアからも「一気に2nmへ及ぶ可能性がある」との報道がなされました。TSMCからの公式発表はありませんが、私の見解としてはこうです。現在建設中のJASM第2工場において設計変更を行う場合、2027年投産という当初のスケジュールからは遅れが生じ、2028年の稼働開始となる可能性が高いでしょう。しかし、3年後の市場ニーズを考慮すれば、TSMCがJASM第2工場のプロセス技術を高度化させる可能性は極めて高いと考えます。

実際、TSMCの魏哲家(C.C. Wei)会長は、「世界のデータセンター建設計画は3倍に増加しており、AIチップの需要は生産能力を遥かに超えている」と述べています。NVIDIA、AMD、Apple、Google、Amazonといった主要チップメーカーは、こぞって最先端チップへとシフトしています。3年後には6nmや7nmといったプロセス技術はすでに「成熟プロセス(レガシーノード)」となり、需要の低下は避けられません。したがって、TSMCが時流に合わせて製法をアップグレードするのは合理的な推測と言えます。

熊本第2工場の計画変更の可能性からは、TSMCのグローバルな投資戦略が常に動的に調整されていることが見て取れます。日本は米国の強固な同盟国であり、地政学的な観点からも、日本での生産は米国政府および顧客にとって受け入れ可能な選択肢です。さらに、アジアに位置する日本は、後工程(パッケージングやテスト)およびシステム組み立てへの移行も迅速に行えるため、「NCNT(No China, No Taiwan)」政策における最適な代替案と言えるでしょう。

現在、TSMCにとって最大の悩みは、最先端プロセスの生産能力不足です。SamsungやIntelが最先端プロセスで追いつけていないため、TSMCの3nmラインはフル稼働でも顧客の需要に追いつかず、2nmの生産枠もすでに予約で埋まっています。そのため、TSMCは工場の拡張を続けるだけでなく、社内で元々7nmや6nm用に確保していたスペースさえも、より最先端のプロセス用に転換せざるを得ない状況です。将来的に、熊本工場は単に日本の顧客需要を満たすだけでなく、米国系顧客の注文分も大量に日本生産へと移管されることになるでしょう。

地下水への懸念に向き合い、地域との対話と保全活動を強化

JASMの用水問題について、私自身の初期の経験をお話ししましょう。昨年、出版社の手配で日本記者クラブにて講演を行う機会がありました。その質疑応答の際、九州地方の記者から突然、「TSMCの水資源処理に問題はないのか? 汚染の可能性は?」という質問を投げかけられました。正直なところ、私はその質問に驚き、即答できませんでした。なぜなら、台湾で30年以上半導体業界を取材してきましたが、TSMCの水利用や処理に関して不適切な事例があったとは聞いたことがなかったからです。台湾の半導体工場は水の使用量こそ多いものの、回収処理と循環利用に関しては過去優れた実績を残しているという印象でした。

その後、熊本では過去に深刻な水質汚染(公害)の歴史があり、住民が水質問題に対して非常に敏感であること、そして熊本地域が地下水資源に高度に依存していることを知りました。それゆえ、市民や農家の方々が、半導体工場による大量の取水が資源枯渇を招くのではないかと懸念するのは当然のことでした。また、日本のメディアがTSMCへ取材を試みてもコミュニケーションの機会が少なく、疑念が増幅していたという事情も知りました。そこで私は帰国後、「TSMCが海外投資を行う際は、地域住民とのコミュニケーションを一層強化し、現地メディアとも適度な連携を図ることで、懸念を払拭すべきだ」とする記事を執筆しました。

その後、TSMCの幹部からも、この問題を重要視し注視していくとの意向が伝わってきました。実際、TSMCは米国、日本、ドイツなどでの投資において、ESGやDEI(多様性・公平性・包摂性)の専任担当者を配置し、現地文化への融合に努めています。熊本市民の地下水への懸念に対しては、熊本県が自治体首長らによる「熊本地下水基金」を設立し、地域全体での地下水保全に取り組んでいます。

また、取水による影響を最小限に抑えるため、JASMは熊本県と協力し、地下水涵養(かんよう)源となる水田の作付面積拡大や、湛水期間の延長といった対策を推進しています。さらには地元産の米を購入するなど、積極的な行動を示しています。JASMは2025年11月に水処理施設をメディアに公開する予定であり、工場の稼働においては過度な取水を極力避ける方針を強調しています。

インフラ整備思想の差異:台湾の「中央主導」対 日本の「地方主導」

しかし、私は日本のメディアに対して、まだ十分に注目されていない重要な視点についても言及しています。それは、工業団地の設置における日本と台湾のアプローチの明確な違いです。

過去、台湾の科学園区(サイエンスパーク/新竹、中部、南部など)は、すべて中央政府主導で推進されてきました。政府が区域を画定し、土地収用を完了させ、水・電気・交通などの関連インフラをすべて整備した上で「専門の園区」として提供するため、進出企業はスムーズに研究開発や生産を開始することができます。

一方、日本には台湾のサイエンスパークのような包括的な計画が見当たらず、中央政府による統括管理というよりは、地方自治体主導の推進がメインであるように見受けられます。そのため、JASMの工場用地の真向かいに農家のキャベツ畑が広がっていたり、道路幅が不十分で初期には通勤渋滞が頻発したりといった現象が起きています。

台湾のサイエンスパーク方式であれば、園区内に農地が混在することはありませんし、企業と住民が水や電力を奪い合うような問題も発生しにくい構造になっています。これこそが、産業発展の環境作りにおける日台の最も顕著な違いであると私は考えています。

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